あとがき

ライター・編集者 長瀬千雅のブログです

絵描きの欲望 vs エンジニアの欲望

Yahoo!ニュース オリジナル 特集でこちらの記事を書きました。

「神絵が1分で生成される」 進化するAI、イラストレーターの仕事を奪うのか(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

企画したのはヤフーのYさんです。Yさんとは初仕事でしたが、楽しかった。

取材を進めるにあたっては、Generative AIをめぐる混沌とした状況をわかりやすく、包括的に理解できるようにすることを心がけました。「なんかイラスト方面で燃えてるらしいね?」というぐらいの人でも、するすると読み進められるように。というか、取材を始める前までは、私自身がその程度の認識だったんです。

私は、藤田直哉さん編著の『地域アート 美学/制度/日本』という本の編集に携わったときの経験から、「アートの歴史はものをつくる人の歴史であって、美術という制度がどうなろうとつくるやつはつくる」と思っているので、イラストレーションだって描くやつは描くし、それをなりわいとするやつだっていなくならないだろうと思っています。だから、「AIはイラストレーターの仕事を奪うか」の答えとしては、「なんらかの変化をうながすであろうが、100%仕事を奪うわけではない」というのが答えになると思っていたし、取材を終えてもその考えは変わりませんでした。

それよりもおもしろかったのが、絵描きの欲望とエンジニアの欲望って、全然違うものなんだなあと気づいたことでした。考えてみれば当たり前ではあるのですが、どちらかというと絵描きの欲望(承認欲求も含めて)のほうが目に見えやすいから、「AIとそれに抗う絵師たち」みたいな構図になっているけど、AIだって一皮むけば、「まだ誰もみたことのない技術をつくりたい」という超人間くさい欲望がうごめいていて。Generative AIが巻き起こしている「炎上」は、二つの欲望がこすれ合うところで生じている。そのなかでいろんな人が、それぞれの立場をとりながら、なにごとかを生み出している。すべてのクリエイターに幸あれと思うし、シンギュラリティーがくるかこないかはわしにはわからんが、いかなAIといえどもやっぱり人間の欲望が駆動しているんだなあと思った瞬間が、私にとってのハイライトでした。

そして、そう思うことができたのは、取材に応じてくださったみなさんが、イラストレーションに、あるいはAIエンジニアリングに、本気で取り組んでいる方々だったからだと思っています。ありがとうございました。