あとがき

ライター・編集者 長瀬千雅のブログです

遅れてきた演劇青年

昨年12月、Yahoo!ニュース オリジナル 特集でこちらの記事を書きました。

アマゾンのCMで注目 偉大な父をもつ、実力派俳優・北村有起哉の成長と葛藤(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

ジャーナリストの森健さん(Y!ニュース特集のデスクでもある)の企画です。ヤフーの担当はIさん。演劇は好きなジャンルなのでついディティールを書き込みすぎるところ、お二人のアドバイスでよいかたちにまとめることができたと思っています。

当初は、「『父は名優・北村和夫』の枕詞を使わずに、北村有起哉を書けないものか」と考えていました。しかし、これまでの出演歴を見返したりしているうちに、むしろ、父が北村和夫であることの意味を、しっかりととらえるべきではないかと思うようになりました。昨年春に、コロナ禍の演劇について書くために文学座を取材したのですが、その過程でさまざまな本や資料を読んで、杉村春子北村和夫のイメージががらっと変わったこともあります。杉村春子はなぜ『喜びの琴』の上演を許さなかったのか。

北村さんは、和夫さんの当たり役のうち、『欲望という名の電車』のスタンリーと『怪談 牡丹燈籠』の伴蔵はやれたから、あとは『花咲くチェリー』をやりたいと、いくつかのインタビューで語っています。戯曲は上演されることによって息を吹き込まれ、命を永らえていく。新作主義の現代の演劇界で、古い戯曲を取り上げることは、結果的に演劇というものに貢献することになるんだと思うし、それこそが「父が北村和夫」であることの意味であり、有起哉さんが演劇界にとって必要な人である意味だと、私はとらえました。だってやっぱり、北村有起哉がやる『花咲くチェリー』、見たいじゃないですか。

ちなみに、テレビドラマや映画の北村さんも大好きで、「ちかえもん」の竹本義太夫や「半径5メートル」の海老原さんなどいい役がたくさんありますが、個人的にツボだったのは、「美食探偵 明智五郎」の上遠野警部と「エール」の池田二郎です。いつか誰か北村さんに、がっつりとした芸談のインタビューをしてくれないかなあ。