あとがき

ライター・編集者 長瀬千雅のブログです

性教育といえば包括的性教育を指すようになるはず

Yahoo!ニュース 特集でこちらの記事の編集を担当しました。3本の連載です。

「性教育はエロいものだと思ってた」──高校生が自分たちで考える「人生の役に立つ授業」【#性教育の現場から】(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

「いつもの先生」が教えることに意味がある──性教育を担える教員をどう育成するか【#性教育の現場から】(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

「きちんと教えてこなかった大人の責任」ーー性を教え続けた公立中教諭の抱く危機感【#性教育の現場から】(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

取材・執筆はライターの岡本耀さんです。企画立案から記事が公開されるまでにはいろんな局面がありましたが、岡本さんは常に熱意をもって、かつクールにことにあたってくださいました。あの胆力はどこからくるんだろうと、いつも感心してしまう。編集デスクとして私がやったことは、「性教育をテーマにして何かやりませんか」と声をかけたことぐらいです。

このブログでは、企画・編集だけでなく、取材・執筆まで担当した記事の振り返りをしようと思っているのですが、「性教育」というテーマには自分なりに思い入れがあるので、例外的に少し書き留めておきたいと思います。

今回の、性教育をテーマにした3本シリーズの記事を企画する前段階として、以下の二つの記事を担当しています。上は、2019年12月に配信されたもの。下は、2020年12月に配信されたものです。

刑法の性犯罪に関する規定、さらなる見直しが必要か - Yahoo!ニュース

今年だけで10冊以上、「性教育本」が出版ブーム 背景にある教育への不安 - Yahoo!ニュース

上の記事(刑法の性犯罪規定にかんするオピニオン記事)は、自分で取材・執筆まで担当しました。記事をつくりながら、「結局、『相手も意思も感情もある一人の人間で、尊厳というものがものすごく大事なんだよ』ということを、繰り返し繰り返し、みんなで思い出していくしかないよな」と思っていました。っていうか、本来、それが性教育やんな?

われながら遅い気付きですが、そう思って見回してみると、「家庭でできる性教育」をうたう本が、たくさん出版されていることに気づきました。安全教育に重きを置いているもの、親子のコミュニケーションを中心にしているものなど、いろんなバリエーションがあるけれど、まずは「性教育の本がたくさん出ている」という状況自体を、記事にできないだろうか。そう考えて企画したのが、下の記事(「性教育本が出版ブーム」の記事)でした。取材・執筆は、ノンフィクションライターの古川雅子さんに依頼しました。

性教育本ブーム」の取材の課程で、もっとも印象に残ったのは、アクロストンのお二人の言葉でした。「ワークショップに参加したり、性教育本を買ったりする保護者は、放っておいてもちゃんとやるんですよ」。たしかに、そのとおりだわ。そう思うと同時に、それならなおさら、性教育こそ学校でやったほうがいいじゃん、家庭に居場所がない子に機会を与えなきゃいけないじゃん、と思いました。そのシンプルな思いが、岡本さんによる3本シリーズの記事につながっています。

取材の過程でこんな本を読みました:
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』
『丸さんの明るい性教育 大東学園の総合学習「性と生」の実践から』

最後にひとつ。「性教育はエロいものだと思っていた〜」の記事の、デートDVの授業の描写のなかで、「相手を好きだからこそ怒ったり、相手のLINEの連絡先を削除したりするのは、『恋愛による勘違い』だ」というくだりが出てきますが、私自身は、「勘違いするからこその恋愛じゃん」「恋愛と、相手の身体を欲望することは不可分じゃん」と思ったことを、告白しておきます。

性についての取材をしていて思い出すのは、自分が傷つけられたことよりも、相手を傷つけた(かもしれない)ことなんですよね。ブーメランのように自分に突き刺さって、しんどいっす……。いずれにしても、この社会が、対人性愛をどう扱うようになっていくのか、これからも注視していきたいと思っている。

慰霊とは何か

Yahoo!ニュース オリジナル 特集でこちらの記事を書きました。

「ちゃんと触れていかないと、母の尊厳を回復できない気がした」画家・弓指寛治さんが語る、亡き母のこと #今つらいあなたへ(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

Yahoo!ニュース オリジナルとして #今つらいあなたへ のハッシュタグつきで公開されました。9月の自殺予防週間に合わせて、ウェブメディアにできるメッセージを発信しようという企画の一環なのですが、「それだったら弓指さんしかいない」と思って、お話を聞かせていただけませんかとお願いしたところ、快く取材を受けていただきました。
私は「四月の人魚」や「ダイナマイトトラベラー」は見逃していて(腰が重い自分がうらめしい)、最初に見たのはあいちトリエンナーレの「輝けるこども」でした。2011年に起きた、通学中の児童の列にクレーン車が突っ込んで6人の子どもが亡くなった事故を題材にした作品展示。被害者の生き生きとした生をたどっていくと、ある一点で被害者と加害者の視線が交差する。事故が起きた環境(クルマ社会や道路行政)についてまで考えさせる「輝けるこども」の素晴らしさは、数多の有識者が言及するとおりです。

弓指さんがその想像力でもって何を成し遂げているかについては、2020年1月のゲンロンカフェでの東浩紀さんとの対談で存分に語られています。再放送がVimeoかニコ動で見られるようなのでぜひ。

「悪の愚かさ」と芸術 – ゲンロンカフェ

私はVimeoのレンタル版で見たのですが、また見返したくなってもう一回レンタルしました。はじめから無期限の購入版にしておけばよかったぜ。

取材の過程でこんな本を読みました:
『自殺』『自殺会議』末井昭
『表参道が燃えた日』「表参道が燃えた日 山の手大空襲の体験記」編集委員会
『「死にたい」に現場で向き合う』松本俊彦編
『人はなぜ死に急ぐか』高柳功
など

原稿を書き終えたあと、オンサンデーズで弓指さんの鳥の絵馬を購入しました。鳥と一緒にいもむしが描かれているのは、岡本太郎とのコラボバージョンだそうです(岡本太郎がいもむしを美しいと言ったことに由来する)。

弓指さんは「挽歌」のあと、80年代にその死が社会現象になったあるアイドルについての作品に取り組みます。そのとき、鳥の「絵馬」を25764羽分つくり、絵の周囲に展示しました。弓指さんといえばこれ、というイメージがあります。

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美術とジェンダーについて

Yahoo!ニュース 特集でこちらの記事を書きました。

指導や演出の名の下に多発するハラスメントーー美術業界の体質に一石を、女性作家たちの挑戦(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

私は批評家ではないし、Yahoo!ニュースは批評媒体ではないので、人物が持っている経験と社会的な課題を結びつける書き方に、どうしてもなってしまいます。このあとがきには、記事に盛り込めなかった視点や証言を、ちょこっと書き残したいなと思っています。

いろいろ取材しながら、展覧会「女が5人集まれば皿が割れる」での、作家としての彼女たち(ひととひとのメンバー)の達成は、「ともすれば単なる自分語りとみなされがちなテーマのなかで、自分たちの経験や内面を探った結果、そこで見つけたものをきちんと作品化して、美術の文脈にのせた」ということだったんじゃないか、と考えていました。『現代アートとは何か』(小崎哲哉著)によれば、現代アートの3大要素は「インパクト、コンセプト、レイヤー」だそうですが、それに照らしても、もちろん作品によって強弱や凸凹はありますが、出展された作品はそれらの要素を満たしていたんじゃないか。取材では、それぞれの作品の着想や制作過程についてもうかがって、そのお話もほんとうにおもしろかったのですが、十分に記事に盛り込めなかったのが心残りです。高橋さんのハンマースホイの話とか、工藤さんの日本茜の話とか。工藤さんの作品は、手法や素材にも一つひとつ意味があって、繊細につむぎ出しているのに、全体としては骨太な印象があるという、不思議な読後感の作品でした。
わっちの素人感想なんかよりも、文中にも登場してくださった吉良智子さんが、雑誌「アートコレクターズ」8月号にレビューを寄稿されていますので、「興味あったけど見逃した」「見たけど解説があるなら読みたい」という方は、そちらをぜひご覧ください。私も吉良先生のレビューを読んで、「そういう意味があったのか」と気づいたことがたくさんありました。

取材の過程でこんな本を読みました:
『ホワット・ア・うーまんめいど』『ホワイトエレファント』出光真子
『テクスチュアル・ハラスメント』ジョアナ・ラス
『戦争と女性画家 もうひとつの近代「美術」』吉良智子
『女性画家たちの戦争』吉良智子
『近代日本の「手芸」とジェンダー』山崎明子
『「女」が邪魔をする』『アートヒステリー』大野左紀子
など

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私はふだん、ライターとして記事を書いたり、編集者として書き手の方と一緒に記事をつくったりしています。いろんな方に取材させていただきます。ニュースの記事は、完成品に至る過程でいろんなものを捨ててしまうので(実際には捨てたわけではないのだが、成果として表に表れない)、企画立案や取材の過程で参考にした本や資料のこととか、記事に盛り込みきれなかったけど書き残しておきたいこととか、いろいろ書いておきたくなったので、ブログをつくることにしました。本来は、できあがったものについてはあんまりしゃべりたくないというか、記事になったものがすべてだし、書いたのはたしかにわしだがある意味で書かされたのだというか、主役はあくまでも記事に登場する人物であってわしは媒体にすぎないのだ。しかしウエブといえど紙幅の都合があるし、にもかかわらず参考文献を載せる慣習がないのだニュース記事には。みたいなうじうじを繰り返し、いつまでもうじうじしてるぐらいだったら書いてしまえということで開設した次第です(言い訳長い)。まだ取材の途中だったりして、お話を聞いたのにアウトプットできていないものもあります。ご迷惑をおかけした方もいるし、媒体側のデスクや編集者さんの助けがないとできない仕事でもあります。たくさんの方に「ごめんなさい」と「ありがとう」を言いたい気持ちをいつも持っています。